
製造現場では、平均値が規格の中心にあっても、製品寸法の散らばり方が工程や作業条件によって異なることがあります。「加工者AさんとBさんでは、どちらの仕上がりが安定しているのか」を感覚だけで判断するのは難しいものです。
そこで利用できるのがF検定です。本記事では、2人の加工者が製作した部品の寸法データを例に、Excelの分析ツールで2群の分散を比較し、F値・p値・実際の標準偏差を工程判断へつなげる手順を解説します。
・F検定は、2群の母分散が等しいという帰無仮説をもとに、ばらつきの違いを評価する方法
・平均値ではなく、分散(ばらつき)に差があるかを確認する
・Excelの分析ツールでは、F値と片側p値を出力できる
・結論はF値だけでなく、p値・分散・標準偏差を組み合わせて読む
・F検定は正規性や外れ値の影響を受けやすいため、実行前のデータ確認が重要
F検定とは?

F検定は、2群の母分散が等しいという帰無仮説をもとに、観測された分散の違いが統計的に有意といえるかを評価する方法です。簡単に言えば、2つのグループで「ばらつき方に違いがあるか」を確認する検定です。
平均値が同じでも、片方のデータが狭い範囲に集まり、もう片方が広く散らばっていれば、工程の安定性は異なります。F検定が比較するのは、この散らばりを数値化した分散です。
帰無仮説 H₀:σA2 = σB2
対立仮説 H₁:σA2 ≠ σB2
今回の問いは「AさんとBさんでばらつきが異なるか」で、方向を限定していないため、対立仮説は両側です。
平均と分散は何が違う?
| 確認したいこと | 主な方法 | 製造業での問い |
|---|---|---|
| 2群の平均値に差があるか | t検定 | AラインとBラインで平均寸法が異なるか |
| 2群の分散に差があるか | F検定 | AさんとBさんで寸法のばらつきが異なるか |
平均値比較が目的の場合に、最初にF検定を行い、その結果だけでStudentのt検定かWelchのt検定かを機械的に選ぶ方法は推奨しません。平均値を比較したい場合は、データ構造や解析目的を確認し、分散が等しいという根拠が乏しければWelchのt検定を検討します。
F値(分散比)とは?
F値 = 分散1 ÷ 分散2
F = s12 / s22
F値は2群の標本分散の比です。1に近ければ標本分散は似ており、1から離れるほど違いが大きいことを示します。ただし、F値が大きい、または小さいだけで「有意差がある」とは判断できません。統計的な判断には、分子・分母の自由度と有意水準を考慮したF分布を使い、p値または臨界値を確認します。
F分布は左右対称ではありません。また、F値は「どちらの分散を分子に置くか」で値が変わります。必ずF=変数1の分散÷変数2の分散という入力順と、結果の方向を対応させてください。
F検定を使うのはどんなとき?
F検定は、独立した2群の計量値について、分散の違いを確認したい場面で使います。
✅加工者AさんとBさんで、同じ部品の寸法ばらつきが異なるか
✅設備Aと設備Bで、加工時間や製品寸法の安定性が異なるか
✅仕入先Aと仕入先Bで、材料特性のばらつきが異なるか
設備更新前後や測定方法変更前後の比較でも利用できる場合があります。ただし、同じ対象を繰り返し測定したデータなど、観測値に対応関係がある場合は、独立2標本のF検定を機械的に適用できるとは限りません。まずデータの独立性と対応関係を確認してください。
事例:加工者AさんとBさんのばらつきを比較

ある製造ラインで、AさんとBさんが同じ種類の部品を加工しています。検査担当者から「Aさんの製品は安定しているが、Bさんの製品は少し散らばって見える」という声が上がりました。

感覚的な印象ではなく、データで確認するため、Aさん20個、Bさん18個の部品寸法を収集しました。今回確認する問いは次のとおりです。
AさんとBさんで、製品寸法の分散に差があるか?
元の配布ファイルでは2つのシート間で一部の測定値が一致していなかったため、記事のExcel出力と同じデータへ統一した整合版を用意しました。
| 項目 | Aさん | Bさん |
|---|---|---|
| サンプルサイズ | 20 | 18 |
| 平均 | 10.001 mm | 10.001 mm |
| 標本分散 | 0.000388 mm² | 0.002481 mm² |
| 標本標準偏差 | 0.01971 mm | 0.04981 mm |
平均はほぼ同じですが、Bさんの標本分散はAさんの約6.39倍です。見た目の違いだけで結論を出さず、この分散差が標本変動だけでは説明しにくいかをF検定で評価します。
ExcelでF検定を実施する手順
① Excel分析ツールを準備する
Excelの[データ]タブに[データ分析]が表示されていない場合は、分析ツールを有効にします。詳しい設定方法はExcel分析ツールの導入手順で確認できます。
② F検定を選択する
[データ]→[データ分析]を開き、「F検定:2標本を使った分散の検定」を選択します。

③ 必要情報を入力する
表示されたダイアログで、次の項目を設定します。
| 入力項目 | 今回の設定 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 変数1の入力範囲 | Aさんの20データ | F値の分子になる |
| 変数2の入力範囲 | Bさんの18データ | F値の分母になる |
| ラベル | オン | 選択範囲の先頭行に見出しを含むため |
| α | 0.05 | 結果を見る前に設定する代表的な有意水準 |
| 出力先 | 新規ワークシートなど | 元データと重ならない場所を選ぶ |

変数1と変数2を入れ替えるとF値は逆数になり、片側確率の向きも変わります。入力順を記録し、本文や報告書で「分子/分母」を明記してください。
④ F値とp値を確認する
[OK]を押すと、平均、分散、観測数、自由度、観測された分散比、片側p値、片側臨界値が出力されます。

| 確認項目 | 結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| Aさんの標本分散 | 0.000388 | 変数1・F値の分子 |
| Bさんの標本分散 | 0.002481 | 変数2・F値の分母 |
| F値(A÷B) | 0.156555 | Aの分散はBの約0.157倍 |
| Excelの片側p値 | 0.0001056 | 今回はF<1なので左側確率 |
| 両側p値 | 0.0002112 | 「分散が異なるか」という両側仮説に対応 |
⑤ 結果を解釈する
p値とは、帰無仮説(2群の母分散が等しい)が正しいと仮定した場合に、今回観測された結果以上に極端な結果が得られる確率です。p値が小さいほど、「2群の分散は等しい」という前提では今回の結果を説明しにくくなります。
| p値(有意水準α=0.05の場合) | 統計的な判断 |
|---|---|
| p < 0.05 | 帰無仮説を棄却し、分散に統計的に有意な差が認められる |
| p ≧ 0.05 | 分散に統計的に有意な差があるとはいえない(分散が同じことの証明ではない) |
0.05は絶対的な基準ではなく、解析前に設定する有意水準αの代表例です。誤判定の影響や品質上の要求に応じて事前に決めます。
今回は両側p値0.0002112が0.05より小さいため、「AさんとBさんの母分散は等しい」という帰無仮説を棄却します。2群の分散に統計的に有意な差が認められ、標本ではBさんのばらつきが大きいと判断します。
ただし、この結果だけで「Bさんの技能が低い」と決めつけてはいけません。設備、治具、材料ロット、測定方法、作業条件、担当した製品の難易度など、ばらつきに影響する他の要因も確認してください。
片側p値と両側p値を混同しない
Excel分析ツールのF検定は、「P(F<=f) 片側」を出力します。Microsoftの仕様では、F<1なら観測F値以下の確率、F>1なら観測F値以上の確率が表示されます。
今回の問いは「AとBの分散が異なるか」という両側検定です。両側p値は、2つの裾確率の小さい方を2倍し、1を上限とします。
今回のデータ
F=0.156555(A÷B)/左側確率=0.0001056
両側p値=2×0.0001056=0.0002112
「Excelのp値はいつでも機械的に2倍する」とだけ覚えないでください。片側か両側かは解析目的と対立仮説に基づいて事前に決め、入力順、F値が1より大きいか小さいか、どちらの裾確率が対象かを確認します。Excel関数で検算する場合は、左右の確率を求めて小さい方を2倍します。Excel分析ツールの出力仕様は、Microsoft公式のAnalysis ToolPak解説でも確認できます。
Stat Lab Analyticsで確認する
同じF検定は、無料統計ソフトStat Lab Analyticsでも実行できます。Excelでの操作に加えて、StatLAを使った解析方法と結果の見方も確認できます。
F検定を使うときの注意点
正規性を確認する
古典的な2標本F検定は、各群の母集団が概ね正規分布に従うことを前提とし、正規性からの逸脱に比較的敏感です。実行前にヒストグラムやQ-Qプロットなどで分布を確認し、必要に応じて正規性検定も参考にします。
正規分布の考え方は正規分布の解説、確認方法は正規性検定の解説と歪度・尖度の解説を参照してください。
外れ値を確認する
分散は平均との差を2乗して計算するため、外れ値の影響を強く受けます。1点の極端な値によって分散が大きくなり、F検定の結論が変わることもあります。
事前にヒストグラムや箱ひげ図で分布を確認してください。外れ値が見つかっても直ちに削除せず、転記ミス、測定異常、設備トラブル、実際の工程変化など原因を調べます。詳しくは外れ値の見つけ方と扱い方を参照してください。
サンプルサイズを確認する
サンプルサイズが小さいと、分散比の推定が不安定になり、実務上重要な違いを検出できないことがあります。反対に、データ数が多い場合は小さな分散差でも統計的に有意になることがあるため、実際の標準偏差や工程への影響も確認します。
データの独立性を確認する
各群内の観測値と、2群同士の観測値が独立していることを確認します。同じ製品を繰り返し測定した値、連続生産による自己相関が強いデータ、同一ロット内で強く関連するデータなどは、単純な独立2標本F検定の前提を満たさない可能性があります。
統計的有意差と実務的重要性を分ける
p値が小さくても、その分散差が規格、工程能力、歩留まり、後工程、コストにどの程度影響するかは別に評価します。F検定の結果は、原因の断定ではなく、追加調査や工程比較を行うための客観的な手がかりとして使ってください。
まとめ

F検定は、2群の平均値ではなく、分散(ばらつき)に差があるかを評価する統計的仮説検定です。Excelでは分析ツールから実行できますが、入力順と片側p値の向きを確認し、解析目的が両側なら適切な両側p値で判断します。
今回の事例では、AさんとBさんの平均寸法はほぼ同じでした。一方、Bさんの標本分散はAさんの約6.39倍で、両側p値は0.0002112でした。有意水準0.05では、2群の分散に統計的に有意な差が認められ、標本ではBさん側のばらつきが大きいという結論です。
実務では、F値とp値だけで終わらせず、分散・標準偏差・分布・外れ値・サンプルサイズ・データの独立性を確認し、設備や材料などの工程要因と合わせて判断しましょう。
Stat Lab Analytics(StatLA)
2群のばらつきを、 実際のデータで 比較してみよう。
2群のデータを入力するだけでF検定を実行。
分散・F値・p値から、ばらつきの違いを確認できます。
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