
はじめに
製造業では、設備改善や品質改善の効果を確認するために、キズの発生件数、異物混入件数、設備故障件数、クレーム件数などの回数データを比較する場面が数多くあります。このようなデータの比較には、ポアソン検定が広く用いられています。
しかし、ポアソン検定を実施する際に重要なのがサンプルサイズ設計です。サンプル数が少なすぎると、実際には改善効果があるにもかかわらず「有意差なし」と判定される可能性があります。一方で、必要以上に多くのデータを収集すると、時間やコストが無駄になってしまいます。
そのため、実験やデータ収集を始める前に、「どれくらいのサンプル数(n)が必要なのか」をあらかじめ設計しておくことが重要です。
この記事では、ポアソン検定におけるサンプルサイズ設計の基本的な考え方から、必要となるパラメータ、具体的な計算式、Excelを用いた計算方法まで、初めて学ぶ方にもわかりやすく解説します。実験計画や品質改善に役立つ知識として、ぜひ最後までご覧ください。
ポアソン分布に従う件数データを比較する代表的な統計手法である「ポアソン検定」について、製造業での活用例を交えながらわかりやすく解説しています。Excelでの実施方法も紹介しているので、実務で品質改善や工程改善に取り組む方はぜひご覧ください。
サンプルサイズ設計とは?

ポアソン検定のサンプルサイズを計算するためには、次の4つのパラメータを設定します。
これらの情報があれば、ポアソン検定を実施するうえで必要なサンプルサイズをn=○といった形で求めることができます。
■必要なパラメータ
サンプルサイズ設計を行う上で具体的に必要は以下の4つです。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| α | 有意水準 |
| Power | 検出力 |
| λ₁ | 改善前発生率 |
| λ₂ | 改善後発生率 |
具体的は要素としては、有意水準α / 検出力1-β(power) / 効果量 になります。
この考え方は、t検定やF検定といった他の検定におけるサンプルサイズ設計でも共通です。
サンプルサイズ設計は、必要なデータ数を事前に決めるための重要な手法です。有意水準・検出力・効果量との関係や、適切なサンプル数の考え方を図解付きでわかりやすく解説しています。
有意水準(α)の意味や第1種過誤との関係、p値との違い、なぜ0.05が広く用いられているのかを、図や具体例を交えてわかりやすく解説しています。
ポアソン検定で必要なサンプルサイズの式

ポアソン検定で必要なサンプルサイズは、次の式で近似的に求められます。
となります。これは2群のポアソン率を比較する代表的な近似式です。
ここで
・λ₁:改善前発生率
・λ₂:改善後発生率
です。
この式から分かるように、必要なサンプルサイズは改善前後の発生率(λ)の差によって大きく変化します。
例えば、改善前後の発生率がほとんど変わらない場合は、差を検出することが難しくなるため、多くのサンプルが必要になります。一方で、大きな改善が期待できる場合は、比較的少ないサンプル数でも有意差を検出できる可能性があります。
また、有意水準(α)を小さくする、あるいは検出力(Power)を高く設定するほど、統計的な判定基準が厳しくなるため、必要なサンプルサイズは増加します。
例題:設備改善によるキズ発生件数の減少を検証する場合

ある電子部品メーカーでは、搬送設備を改善したことで、基板表面のキズが減少したかを確認したいと考えています。
改善前後のキズ発生率は、過去のデータから次のように予想されています。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 改善前発生率(λ₁) | 40件/100㎡ |
| 改善後発生率(λ₂) | 25件/100㎡ |
| 有意水準(α) | 0.05 |
| 検出力(Power) | 0.80 |
この条件で、ポアソン検定に必要なサンプルサイズを計算してみます。
■Step1:Z値を求める
有意水準と検出力から、それぞれのZ値を求めます。
- z1−β = 0.84
- z1−α/2 = 1.96
■Step2:計算式へ代入する
ポアソン検定のサンプルサイズは、次の式で求められます。
ここに必要な値を代入することで具体的なサンプルサイズを求めることができます。
① 条件を代入
② 分子を計算
= 2.802
= 7.84
40 + 25 = 65
7.84 × 65 = 509.6
③ 分母を計算
= 152
= 225
④ 最終計算
= 2.26
⑤ 計算結果
■Step3:結果を解釈する
この式から得られる値は、発生率の比率に対する理論値であり、実際のサンプルサイズは「観測時間・検査面積・曝露量(Exposure)」を考慮して換算する必要があります。
例えば、「100㎡あたりのキズ件数」を比較する場合は、100㎡を1単位として必要な検査面積を計算します。また、「1日あたりの故障件数」であれば、観測日数へ換算して必要なサンプルサイズを決定します。
今回の例では n = 2.26 となりましたが、これは「約2.26単位分の曝露量が必要である」ことを意味します。実務では小数のまま観測することはできないため、切り上げて3単位以上を確保するのが一般的です。
例えば、
・100㎡を1単位とする場合:300㎡以上を検査する
・1日を1単位とする場合:3日以上観測する
・100時間を1単位とする場合:300時間以上設備を観測する
というように、対象とする曝露量の単位に置き換えて解釈します。
そのため、実務ではこの近似式だけで最終的なn数を決めるのではなく、観測単位や曝露量を考慮してサンプルサイズを決定することが重要です。なお、曝露量が小さい場合や発生件数が少ない場合には、この近似式ではなく、ポアソン分布に基づく厳密なサンプルサイズ計算を用いることもあります。
Excelでの計算方法

ポアソン検定のサンプルサイズは、Excelを用いることで簡単に計算できます。
以下に必要な関数や具体的な計算例を、事例を元に紹介します。
今回は例題の事例を使用するので、以下の情報を用いて求めます(サンプルサイズ設計に必要な4つの情報です)。
・改善前発生率(λ₁):40件/100㎡
・改善後発生率(λ₂):25件/100㎡
・有意水準(α):0.05
・検出力(Power):0.80
まず、有意水準と検出力に対応するZ値をExcelで求めます。
具体的なExcel関数は以下です。
| 項目 | Excel関数 | 結果 |
|---|---|---|
| z1−α/2 | =NORM.S.INV(1-0.05/2) | 1.96 |
| z1−β | =NORM.S.INV(0.80) | 0.84 |
などを利用して計算できます。
続いて、次の数式をExcelへ入力します。
(今回はあえてz1−α/2とz1−βの部分も関数で表現しました。↑で求めているので、該当箇所を1.96 / 0.84と入力頂いてOKです)
① Excelへ入力する数式
② Excelの計算結果
③ 計算結果の解釈
実務では切り上げて3単位以上を目安とします。
!ポイント
Excelでは、NORM.S.INV関数を使用することでZ値を自動で計算できるため、αや検出力を変更しても簡単に必要なサンプルサイズを再計算できます。品質改善や設備改善の効果検証を行う際には、テンプレート化しておくことでさまざまな条件に対応できます。
よくある質問(FAQ)
製造業でよく使用されるt検定・χ二乗検定・F検定・ポアソン検定のサンプルサイズ設計について、それぞれの考え方や計算式、Excel・Pythonによる計算方法を比較しながらわかりやすく解説しています。どの検定を選べばよいか迷った場合にも役立つ総合ガイドです。
