
はじめに
製造現場では、「基板のキズの数」「異物混入件数」「設備故障件数」など、一定の範囲や時間内に発生した件数を評価したい場面が数多くあります。
このようなデータは通常の平均値やt検定ではなく、ポアソン分布に従うことが多く、その差を評価するために用いられるのがポアソン検定です。
ポアソン検定を利用することで、不良件数の増減が偶然によるものなのか、それとも工程改善による効果なのかを統計的に判断できます。
この記事では、ポアソン検定の基本的な考え方から、製造業での活用事例、Excelでの実施方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。
・製造業では、基板のキズ数・設備故障件数・異物混入件数などの品質評価で広く利用されています。
・ポアソン検定を利用することで、改善前後の件数の違いが偶然によるものか、統計的に有意な差かを判断できます。
・ExcelではPOISSON.DIST関数を利用してポアソン分布の確率を計算できます。
ポアソン検定とは?

ポアソン検定とは、一定時間・一定面積・一定個数あたりに発生する件数を比較するための統計手法です。
例えば、
・1㎡当たりのキズ数
・1時間当たりの設備故障件数
・1000個当たりの不良数
・1日当たりのクレーム件数
など、「○○当たり何件発生したか」というデータを解析する際によく利用されます。
このような件数データは、発生頻度が低く、互いに独立して発生すると仮定できる場合には、ポアソン分布に従うことが知られています。
ポアソン検定では、このポアソン分布を利用して「発生件数に有意な差があるか」を統計的に評価します。
ポアソン分布をはじめ、正規分布・二項分布・t分布・χ²分布・F分布など、統計解析でよく用いられる代表的な確率分布を一覧でわかりやすく解説しています。各分布の特徴や使い分けを知りたい方は、ぜひこちらもご覧ください。
製造業では工程改善前後の比較や設備改善効果の検証など、品質改善活動で頻繁に利用されています。
ポアソン検定では、一定時間や一定面積あたりに発生する件数データがポアソン分布に従うことを前提として解析を行います。

■ポアソン検定の定義式
ポアソン分布の確率は、次の定義式で表されます。
ここで、
・P(X = k):ちょうど k件発生する確率
・λ(ラムダ):平均発生件数(期待値)
・k:観測された発生件数
・e:ネイピア数(約2.718)
・k!:kの階乗(例:3! = 3 × 2 × 1 = 6)
を表します。
この式から、ある平均発生件数(λ)のもとで、観測された件数がどの程度起こり得るのかを計算できます。ポアソン検定では、この確率を利用して観測された件数の差が偶然によるものか、それとも統計的に有意な差であるかを評価します。
例えば、製造業では基板の単位面積当たりのキズ数や設備故障件数、不良品の発生件数などを解析する際に、このポアソン分布を利用して工程改善の効果を検証します。
なお、実務でこの定義式を手計算することはほとんどありません。Excelの関数や統計ソフトを利用すれば、自動で確率やp値を計算できるため、式の意味を理解しておけば十分です。
製造業での活用事例
ポアソン検定は、品質管理や工程管理において件数データを扱う場面で活躍します。
例えば、プリント基板では単位面積当たりのキズ数を比較し、新しい洗浄工程によってキズが減少したかを評価できます。設備保全では設備故障件数の変化を確認し、新しい保全方法の効果を検証することができます。
また、異物混入件数や塗装不良件数、加工キズ件数などの比較にも利用されます。
このようなデータは平均値では評価しにくく、ポアソン検定を用いることで改善効果を客観的に判断できるようになります。
表形式でまとめましたので、参考にしてください。
| 活用場面 | ポアソン検定の利用例 |
|---|---|
| 基板のキズ数 | 設備改善前後で、単位面積当たりのキズ数に有意な差があるかを評価する。 |
| 設備故障件数 | 保全活動の実施前後で、一定期間当たりの故障件数が減少したかを確認する。 |
| 異物混入件数 | 工程改善によって異物混入件数が統計的に減少したかを検証する。 |
| 加工不良件数 | 加工条件の変更により、不良件数が改善したかを評価する。 |
| クレーム件数 | 改善施策の実施前後で、一定期間当たりのクレーム件数を比較する。 |
事例:基板の単位面積当たりのキズ数を比較する

ある電子部品メーカーでは、新しい搬送設備を導入しました。
設備改善によって基板表面のキズが減少したかを確認するため、改善前後で同じ面積の基板を検査しました。
その結果、次のようなデータが得られました。
| 条件 | 検査面積 | キズ数 |
|---|---|---|
| 改善前 | 100㎡ | 42件 |
| 改善後 | 100㎡ | 25件 |
改善後の方がキズ数は少なく見えますが、この差が偶然なのか、本当に設備改善による効果なのかは数値だけでは判断できません。
そこでポアソン検定を実施します。
・帰無仮説H₀:改善前後でキズの発生率に差はない
・対立仮説H₁:改善後はキズの発生率が変化した
となります。
① 改善前の発生率を求める
改善前の発生率は次のように計算できます。
② 改善後の発生率を求める
改善後の発生率は、
となります。
つまり、設備改善によって単位面積当たりのキズ発生率は
へ低下していることが分かります。
③ ポアソン検定を実施する
次に、改善前後で発生率に統計的な差があるかを確認するため、次の仮説を立てます。
その後、ポアソン検定によってp値を算出します。
※ポアソン検定のp値は、条件付き二項分布や正規近似、あるいは尤度比検定を利用してp値を算出します。
計算式は非常に複雑なので、実務においては統計解析ソフトやExcelなどを用いることをお勧めします(Excelでのやり方は次項にて解説します)。
仮に、p値が
となれば、5%有意水準では帰無仮説は棄却されます。
その結果、設備改善によってキズ発生率が統計的に有意に減少したと判断できます。
一方、p値が0.20であれば、有意差は認められず、観測された差は偶然のばらつきである可能性も考えられます。
このように、ポアソン検定を利用することで、工程改善の効果を客観的に評価できます。
有意水準(α)の意味や第1種過誤との関係、p値との違い、なぜ0.05が広く用いられているのかを、図や具体例を交えてわかりやすく解説しています。
統計的仮説検定で必ず出てくる「p値」についてわかりやすく解説!
Excelでの実施方法

Excelには「ポアソン検定」という専用機能はありませんが、発生率の差の検定(ポアソン率の比較)はExcelの関数を組み合わせることで実施できます。
ここでは、先ほど紹介した例を用いて計算してみましょう。
| 条件 | 検査面積 | キズ数 |
|---|---|---|
| 改善前 | 100㎡ | 42件 |
| 改善後 | 100㎡ | 25件 |
まず、1㎡あたりの発生率を求めます。
続いて、帰無仮説「改善前後で発生率は等しい」と仮定し、共通の発生率を計算します。
となります。
次に、検定統計量 を計算します。
となります。
最後に、両側検定のp値を求めます。
= 0.037
または、Z値をセル(例:B10)に入力した場合は、
と入力します。
計算結果はp=0.037となり、5%未満であるため、改善前後でキズ発生率には統計的に有意な差があると判断できます。
※この方法は、発生件数が十分に多い場合に用いられる正規近似によるポアソン率の比較です。実務では一般的な近似手法として広く利用されています。
■統計解析ソフトを利用するとさらに簡単
Excelでもポアソン検定は実施できますが、発生率や検定統計量を自分で計算する必要があるため、入力ミスが起こりやすくなります。
より簡単かつ確実に実施したい場合は、統計解析ソフトの利用がおすすめです。
本サイトでは、ブラウザ上で手軽に利用できる統計解析ツールを公開しています。データを入力するだけでポアソン検定を実行できますので、ぜひご活用ください。
Stat Lab Analytics(無料)
https://stat-lab.jp/stat-tool/
まとめ
ポアソン検定は、一定時間や一定面積あたりの件数データを比較するための代表的な統計手法です。
製造業では、基板のキズ数、不良件数、設備故障件数、異物混入件数など、多くの品質データが件数として記録されるため、ポアソン検定は活用される機会の多い解析手法です。
改善前後で件数が変化した場合でも、その差が偶然のばらつきによるものなのか、それとも改善による効果なのかを統計的・客観的に判断できます。そのため、品質改善活動や工程改善効果の検証に欠かせない統計手法といえます。
また、ポアソン検定は実施するまでに、データのN数(サンプルサイズ)を設計することが重要です。以下の記事で詳しく解説していますので是非目を通してみてください。
ポアソン検定に必要なサンプルサイズの考え方を、製造業における不良件数やキズ件数の例を用いてわかりやすく解説しています。必要なパラメータや計算式、Excelでの計算方法まで初心者向けに詳しく紹介しています。
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