
はじめに
「設備A・設備B・設備Cでは、どの設備が最も品質が良いのだろうか?」
「材料メーカーを変更したことで、製品特性は本当に改善したのだろうか?」
「加工条件を変更した結果は、偶然のばらつきなのか、それとも条件変更による効果なのか?」
製造業では、このように複数の条件による平均値の違いを評価したい場面が数多くあります。
しかし、単純に平均値を見比べるだけでは、観測された差が偶然によるものなのか、それとも条件の違いによるものなのかを客観的に判断することはできません。
そこで活躍するのが分散分析(Analysis of Variance:ANOVA)です。
分散分析は、複数のグループ間で平均値に統計的な差があるかを判定するための代表的な解析手法であり、品質改善や工程改善、実験計画など、製造業のさまざまな場面で活用されています。
本記事では、分散分析の基本的な考え方や製造業での活用例について、統計初心者にもわかりやすく解説します。
また、記事の後半では、一元配置分散分析・二元配置分散分析・一般線形モデル(GLM)・分散成分分析など、それぞれの解析手法の特徴についても紹介します。これから分散分析を学び始める方は、まず本記事で全体像を理解してから各手法の解説記事へ進むことをおすすめします。
分散分析とは?

分散分析(Analysis of Variance:ANOVA)とは、複数のグループ間で平均値に統計的な差があるかを判定するための統計手法です。
例えば、製造業では次のような場面で「条件によって品質が変わるのか」を確認したいことがあります。
・設備A・設備B・設備Cで製品寸法の平均値は異なるか
・3社の材料メーカーで強度の平均値に違いはあるか
・加工温度を変更すると歩留まりは改善するか
このような場合、各グループの平均値を見比べるだけでは、その違いが偶然によるものなのか、本当に条件の違いによるものなのかを判断することはできません。
そこで分散分析を用いることで、観測された平均値の差が統計的に有意な差であるかを客観的に評価できます。

分散分析は「平均値を比較する検定」として知られていますが、実際には平均値そのものを直接比較しているわけではありません。
グループ間のばらつきと、各グループ内のばらつきを比較することで、「条件による違いが偶然では説明できないほど大きいか」を判断しています。
また、分散分析は3つ以上のグループを比較する場合によく用いられますが、2つのグループを比較することも可能です。ただし、2群のみを比較する場合は、一般的にt検定を使用することが多く、分散分析は複数グループを比較する代表的な手法として利用されています。
このように、分散分析は品質改善や工程改善、実験計画法(DOE)など、製造業におけるデータ解析の基礎となる非常に重要な統計手法です。
次の章では、「なぜ平均値を比較するのに”分散分析”という名前なのか?」という疑問について、分散分析の基本的な考え方から詳しく解説していきます。
分散分析の考え方

分散分析では、「グループ間の平均値に差があるか」を調べます。
しかし、実際には平均値そのものを直接比較しているわけではありません。
ここでは、設備A・設備B・設備Cの3台の設備で製造した製品について、それぞれ5個ずつ製品寸法を測定した例で考えてみましょう。
| 設備A | 設備B | 設備C |
|---|---|---|
| 10.02 | 10.10 | 9.91 |
| 9.99 | 10.08 | 9.89 |
| 10.01 | 10.11 | 9.92 |
| 10.03 | 10.09 | 9.90 |
| 9.98 | 10.12 | 9.88 |
このデータを見ると、設備Bは全体的に寸法が大きく、設備Cは小さいように見えます。
しかし、本当に設備によって製品寸法が異なるのでしょうか。それとも、たまたまこのようなデータになっただけなのでしょうか。
この疑問を解決するために、分散分析では次の2種類のばらつきを比較します。
・群間変動(設備間のばらつき)
・群内変動(同じ設備内でのばらつき)
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
■群間変動とは?
群間変動とは、各グループの平均値同士のばらつきのことです。
まずは、先ほど取得した5サンプルのデータから、それぞれの設備の平均値を求めてみましょう。
📊 各設備の平均値を計算する
設備A
÷ 5
設備B
÷ 5
設備C
÷ 5
得られた設備ごとの平均値を比較すると、設備Bの平均値が最も高く、設備Cの平均値が最も低いことが分かります。
つまり、設備ごとの平均値がどれくらい離れているかが「群間変動」です。
今回の例では、設備Bと設備Cの平均値には約0.20 mmの差があります。
この差を見ると、「設備によって製品寸法が変化しているのではないか」と考えたくなります。
しかし、この段階ではまだ結論を出すことはできません。なぜなら、設備ごとの平均値に違いがあっても、その差が偶然のばらつきによって生じた可能性もあるためです。
そこで次に確認するのが、同じ設備の中でどれくらいデータがばらついているのかを表す「群内変動」です。
■群内変動とは?
一方、群内変動とは、同じグループ内でデータがどれくらいばらついているかを表します。
先ほどは設備ごとの平均値を比較しましたが、今度は設備Aだけに注目してみましょう。
設備Aで測定した5個の製品寸法は、次のようになっています。
設備Aの平均値は 10.006 mm でした。
それぞれの測定値と平均値を比較すると、平均値から少しずつバラついていることがわかります。
このように、同じ設備で製造した製品であっても、測定値は平均値の周りに少しずつばらついています。
このばらつきを「群内変動」と呼びます。
では、なぜ同じ設備なのにデータがばらつくのでしょうか?
その理由としては、
・加工条件のわずかな変動
・材料の個体差
・測定誤差
・温度や湿度など周囲環境の変化
など、製造現場では避けることのできない自然なばらつきが存在するためです。
つまり、群内変動とは「条件が同じでも発生する自然なばらつき」を表しています。
分散分析では、この群内変動を基準として、「設備間の平均値の差(群間変動)が十分に大きいかどうか」を判断していきます。
■群間変動と群内変動を比較する
分散分析では、この2つのばらつきを比較します。
もし設備ごとの平均値が大きく離れている一方で、それぞれの設備内ではデータのばらつきが小さい場合は、「設備の違い」が製品寸法に影響している可能性が高いと判断できます。
逆に、設備ごとの平均値に多少の違いがあっても、各設備内のデータが大きくばらついている場合は、その差は偶然によるものと考えられます。
つまり、分散分析では次のような考え方で平均値の違いを判断しています。
| 群間変動と群内変動の関係 | 考えられること |
|---|---|
| 群間変動 > 群内変動 | 設備や条件の違いによって、平均値が変化している可能性が高い。 |
| 群間変動 ≒ 群内変動 | 平均値の差は、偶然のばらつきによって生じた可能性が高い。 |
このように、「2種類のばらつき」を比較することが、分散分析の最も重要な考え方です。
そしてこの考え方は、後に出てくる1元配置分散分析/2元配置分散分析・・・といったいずれの手法においても共通です。

分散分析でわかること

ここまで説明したように、分散分析では「群間変動」と「群内変動」を比較することで、グループ間の平均値に差があるかどうかを統計的に判断します。
では、実際に分散分析を行うと、どのようなことが分かるのでしょうか。
■条件間で平均値が異なるか
分散分析で最も基本的に分かることは、設備や材料、加工条件などによって平均値が異なるかどうかです。
例えば、冒頭でも挙げた
・設備A・設備B・設備Cで製品寸法の平均値は異なるか
・3社の材料メーカーで製品強度の平均値は異なるか
・加工温度を変更すると歩留まりの平均値は変化するか
といった疑問に対して、「条件によって平均値に違いがあるか」を判断できます。
■有意差があるか
平均値に違いが見られたとしても、それが偶然生じた差なのか、それとも条件の違いによるものなのかは見た目だけでは判断できません。
そこで分散分析では、統計学的な検定を行い、平均値の差に有意差があるかを判断します。
有意差が認められた場合は、「偶然だけでは説明できない差が存在する」と考えられます。
一方、有意差が認められなかった場合は、「平均値の差は偶然のばらつきの範囲内である可能性が高い」と判断します。
有意水準(α)の意味や第1種過誤との関係、p値との違い、なぜ0.05が広く用いられているのかを、図や具体例を交えてわかりやすく解説しています。
■どの要因が効いている可能性があるか
二元配置分散分析や一般線形モデルなどでは、複数の要因を同時に解析できます。
例えば、
・設備
・材料メーカー
・加工温度
・作業者
など複数の要因がある場合、それぞれが製品特性へ影響している可能性を個別に評価できます。
そのため、製造工程の改善や品質向上において、「どの要因を優先的に改善すべきか」を検討する際の有力な判断材料となります。
【補足】分散分析表について
上記で説明した「平均値に差があるか」「有意差があるか」「どの要因が影響している可能性があるか」は、いずれも分散分析表(ANOVA表)を用いて判断します。
ただし、本記事では分散分析の基本的な考え方を理解することを目的としているため、分散分析表の作成方法や各項目(自由度・平方和・平均平方・F値・P値など)の意味、結果の詳しい読み取り方については解説しません。
これらの内容は、一元配置分散分析・二元配置分散分析・一般線形モデルなど、それぞれの手法を解説する記事で詳しく紹介します
【重要】分散分析にはいくつか種類がある

これまで説明してきた「分散分析」という考え方は共通ですが、比較したい要因の数や解析したい内容によって、使用する手法が異なります。
例えば、設備だけを比較したい場合と、設備と材料を同時に比較したい場合では、使用する分散分析は異なります。また、3つ以上の要因を同時に解析したい場合には、さらに別の手法を選択します。
そのため、まずは「何を比較したいのか(要因はいくつあるのか)」を整理した上で、適切な分散分析を選択することが重要です。
代表的な分散分析の種類を以下にまとめます。
| 手法 | 選択するケース | 詳細記事 |
|---|---|---|
| 一元配置分散分析 | 要因が1つの場合(例:設備のみ、材料のみ) | 一元配置分散分析の記事 |
| 二元配置分散分析 | 要因が2つの場合(例:設備×材料) | 二元配置分散分析の記事 |
| 一般線形モデル(GLM) | 要因が3つ以上、または共変量を含めて解析したい場合 | 一般線形モデルの記事 |
| 分散成分分析 | 各要因が全体のばらつきへどの程度寄与しているかを評価したい場合 | 分散成分分析の記事 |
それぞれの手法では、解析できる内容や前提条件、結果の見方が異なります。
本記事では分散分析の基本的な考え方を解説しましたが、実際の解析手順や分散分析表の読み方、結果の解釈については、それぞれの解説記事で詳しく紹介しています。目的に応じて、各記事もあわせてご覧ください。
分散分析を行う際の注意点
分散分析は非常に便利な統計手法ですが、どのようなデータでもそのまま適用できるわけではありません。
適切な結果を得るためには、いくつか確認しておきたい前提条件や注意点があります。
ここでは代表的なポイントを紹介します。
■データが正規分布に従っていること
分散分析では、各グループのデータがおおむね正規分布に従っていることが前提となります。
大きく正規性から外れる場合は、データ変換やノンパラメトリック手法の検討が必要になることがあります。
統計解析をするうえで必ず理解しておきたい、正規分布について数理・特徴を網羅!
■グループ間で分散がほぼ等しいこと
各グループのばらつき(分散)が極端に異なる場合は、分散分析の結果が適切でなくなることがあります。
そのため、解析前には等分散性を確認することが重要です。
■データが互いに独立していること
各測定値は、お互いに影響しない独立したデータである必要があります。
例えば、同じ製品を繰り返し測定したデータや、時系列データなどでは、通常の分散分析が適さない場合があります。
分散分析や仮説検定を正しく理解するためには、「サンプリング誤差」の考え方が欠かせません。測定誤差との違いや発生原因、誤差を小さくするための対策をわかりやすく解説します。
■有意差があっても「どの群が違うか」は分からない
分散分析では、「少なくとも1つのグループ間で平均値に差があるか」は判断できますが、どのグループ同士に差があるかまでは分かりません。
そのため、差があるグループを特定したい場合は、Tukey法やBonferroni法などの多重比較を実施する必要があります。
