
はじめに
工程管理では、管理図を用いて工程が安定した状態(管理状態)にあるかを監視することが一般的です。
しかし、工程改善が進み工程能力(Cp・Cpk)が非常に高くなると、新たな課題が発生することがあります。
それは、工程は十分に安定しており製品も仕様を満足しているにもかかわらず、管理限界を超える点が発生し、不要な工程調整を繰り返してしまうという問題です。
通常のシューハート管理図では、工程内のばらつき(σ)が小さくなるほど管理限界(±3σ)も狭くなるため、小さな工程平均の変動でも管理限界外れとして検出されやすくなります。その結果、本来であれば調整する必要のない安定した工程に対して、過剰な調整(Over Control)を行ってしまう恐れがあります。

このような課題を解決するために考案されたのが、「受け入れ管理図(Acceptance Control Chart)」です。
受入管理図は、ISO 7870-3で規定されている管理図であり、「工程が仕様を十分満足している限り、多少の工程平均の変動は許容し、不必要な工程調整を避ける」という考え方に基づいて設計されています。通常の管理図とは異なり、工程を常に目標値へ厳密に維持することだけでなく、品質と経済性の両立を目的としている点が特徴です。
本記事では、ISO 7870-3の内容を基に、受入管理図の考え方や通常の管理図との違い、APL・RPL・ACLの意味、設計手順、数式による計算方法、さらにExcelを用いた実践方法まで、製造業の品質管理担当者にも分かりやすく解説します。
- 受入管理図(Acceptance Control Chart)の目的と、通常のシューハート管理図との違いが分かります。
- 安定した工程でも管理限界外れが頻発する理由と、その背景にある工程能力(Cp・Cpk)との関係を理解できます。
- ISO 7870-3で定義されているAPL・RPL・ACLの考え方と、それぞれの役割を学べます。
- 受入管理図の設計方法や、管理限界・サンプルサイズの計算手順を数式付きで詳しく解説します。
- Excelを用いた受入管理図の作成方法や実務での活用例まで、初心者にも分かりやすく紹介します。
受入管理図とは

「受入管理図(Acceptance Control Chart)」とは、工程が管理状態にあるかどうかだけでなく、「製品が要求された品質を満たしているか」という観点から工程の受入可否を判断するための管理図です。
通常のシューハート管理図では、工程平均が管理限界(UCL・LCL)を超えた場合、異常原因が発生したと判断し、原因調査や工程調整を実施します。
しかし、工程能力(Cp・Cpk)が非常に高い工程では、管理限界は工程内のばらつき(σ)によって決まるため、σが小さいほど管理限界も狭くなります。その結果、製品は十分に仕様を満足しているにもかかわらず、管理限界を超える点が発生し、不要な工程調整を行ってしまうケースがあります。
このような過剰な工程調整を防ぐために考案されたのが受入管理図です。
ISO 7870-3では、受入管理図を管理図の考え方と受入サンプリング(抜取検査)の考え方を組み合わせた管理手法として位置付けています。製品一つひとつの合否ではなく、工程全体が継続して要求品質を満たしているかを判断することを目的としている点が大きな特徴です。
■通常の管理図との違い
通常のシューハート管理図は、「工程平均を目標値付近に維持すること」を目的としています。
一方、受入管理図では、工程平均が多少変動したとしても、製品品質に影響を及ぼさない範囲であれば、その工程を受け入れるという考え方を採用しています。
つまり、
✅通常の管理図:工程が管理状態にあるかを監視する
✅受入管理図:工程が品質要求を満たしているかを監視する
という違いがあります。
ISO 7870-3でも、受入管理図はプロセスを常に目標値へ厳密に維持することを目的とするのではなく、仕様を十分満足する範囲であれば工程平均のある程度の変動を許容し、不必要な調整を避けるための管理方法であると説明されています。
■受入管理図が活躍する場面
受入管理図は、次のような工程で特に有効です。
| 適用が推奨される工程 | 理由 |
|---|---|
| 工程能力(Cp・Cpk)が十分に高い工程 | 製品が仕様限界を十分満足しており、小さな平均値の変動では品質へ影響しないためです。 |
| 工程内のばらつき(σ)が非常に小さい工程 | 通常の管理図では管理限界が狭くなり、わずかな変動でも管理限界外れとして検出されやすくなります。 |
| 管理限界外れが頻発するものの、不適合品はほとんど発生しない工程 | 品質上は問題がないにもかかわらず、不要な工程調整が発生する可能性があるためです。 |
| 不要な設備調整やライン停止を減らしたい工程 | 品質を維持したまま、過剰管理(Over Control)による生産ロスを抑えることができます。 |
| 継続的な品質維持と生産効率を両立したい工程 | 品質保証と経済性のバランスを考慮した工程管理を実現できます。 |
このような工程では、通常の管理図をそのまま使用すると、小さな工程平均の変動にも反応してしまい、過剰管理(Over Control)につながる可能性があります。
受入管理図を適用することで、本当に品質へ影響するレベルの工程変動のみを検出できるため、不要な工程調整を削減しながら品質を維持することができます。
受入管理図の作成方法

受入管理図は、新しい種類の管理図ではありません。
ISO 7870-3でも、受入管理図はシューハート管理図(X̄-R管理図やX̄-s管理図)を基礎としていることが明記されています。
そのため、
・サンプリング方法
・サブグループの考え方
・X̄値の計算方法
・R値・s値の計算方法
・プロット方法
は通常の管理図と同じです。
つまり、X̄-R管理図やX̄-s管理図を作成できる人なら、受入管理図もほぼ同じ手順で作成できます。
Excelで管理図を柵瀬宇する方法について詳しく解説!
データの種類によって分かれる管理図すべての1記事に集約!
通常の管理図と異なり、かつ最も重要は要素は”管理限界線(ACL)”です。
以降では受け入れ管理図の管理限界線について詳しく解説します。
■受入管理図が異なるのは管理限界線のみ
受入管理図は、通常のシューハート管理図のように「平均±3σ」を管理限界とするのではありません。
工程能力や要求品質を考慮しながら、
✅良好な工程(APL)
✅不良工程(RPL)
を区別できるように“管理限界(ACL)”を設計します。
具体的な計算方法は次項にて詳しく説明していきます。
■受入管理図における管理限界(ACL)の計算方法
受入管理図の管理限界(ACL)は、統計的なばらつきだけを基準に決めるものではありません。
ISO 7870-3では、「どの程度の品質なら合格と判断するか」「どの程度悪化した工程を確実に検出したいか」という品質保証の考え方を反映して管理限界を設計します。
そのため、管理限界(ACL)は次の4つのパラメータを用いて決定されます。
・合格プロセス水準(APL)
・不合格プロセス水準(RPL)
・生産者リスク(α)
・消費者リスク(β)
これらを設定することで、良好な工程を誤って不合格と判定するリスクと、不良な工程を誤って合格と判定するリスクのバランスを考慮した管理限界を設計できます。
■管理限界を決定する考え方
まず、工程平均の位置を次の3つの領域に分けます。

それぞれの領域では以下を示しています。
・APL:安心して受け入れられる工程
・RPL:受け入れてはいけない工程
・ACL:工程の受入・不受入を判断する境界
つまり、ACLはAPLとRPLの中間に位置する「判定基準」と考えることができます。APLとRPLの間は「不問領域(Indifference zone)」と呼ばれ、この領域では直ちに工程を調整すべきかどうかを慎重に判断します。
管理限界(ACL)の定義式

ここでは、受入管理図における「受入管理限界(Acceptance Control Limit:ACL)」の定義式および計算方法について解説します。
受入管理図の管理限界は、通常のX̄管理図のように「平均値±3σ」で決定するのではなく、品質保証上の要求水準と許容するリスクを考慮して設定します。
そのため、管理限界を計算するには、あらかじめ次の4つの値を決めておく必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
|
APL (Acceptable Process Level) |
合格と判断できる工程平均(良好な工程水準) |
|
RPL (Rejectable Process Level) |
不合格と判断する工程平均(許容できない工程水準) |
| α(生産者リスク) | 良好な工程を誤って不合格と判定する確率 |
| β(消費者リスク) | 不良な工程を誤って合格と判定する確率 |
APLおよびRPLは、品質要求や製品仕様を基に設定する工程平均値です。また、αとβは品質保証上どの程度の判定ミスを許容するかを表すリスクであり、ISO 7870-3では、これら4つの値を基に受入管理限界(ACL)を設計します。
有意水準(α)の意味や第1種過誤との関係、p値との違い、なぜ0.05が広く用いられているのかを、図や具体例を交えてわかりやすく解説しています。
■上側受入管理限界(ACLU)
上側受入管理限界(ACLU)は、次式で計算します。
この式を見ると、
ACLはAPLからRPLへ向かう途中に配置される管理限界
であることが分かります。もしα=βであれば、
となるため、ACLはAPLとRPLのちょうど中間になります。
ISO 7870-3でも、この場合ACLはAPLとRPLの中間位置になることが説明されています。
■下側受入管理限界(ACLL)
同様に、下側受入管理限界は
で計算します。
二側規格の場合は、「上側管理限界」「下側管理限界」をそれぞれ計算します。
計算例|管理限界(ACL)を実際に計算してみよう

それでは、ISO 7870-3の計算式を使って、実際に上側受入管理限界(ACLU)を求めてみましょう。
今回は、次の条件とします。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 目標値(Target) | 50.00 mm |
| 上側APL | 50.20 mm |
| 上側RPL | 50.50 mm |
| 生産者リスク α | 0.05 |
| 消費者リスク β | 0.05 |
■STEP1 z値を求める
まず、αとβに対応する標準正規分布のz値を求めます。
| 項目 | 値 | Excelでの求め方 |
|---|---|---|
| zα | 1.645 | =NORM.S.INV(1-α) |
| zβ | 1.645 | =NORM.S.INV(1-β) |
■STEP2 APLからRPLまでの距離を求める
まず、
を計算します。
事例のAPL・RPLの値を代入すると、
= 0.30 mm
つまり、APLからRPLまでは0.30 mm離れています。
■STEP3 係数を計算する
次に、
を計算します。それぞれの値を代入すると、
= 1.645 3.290
= 0.50
つまり、ACLはAPLからRPLまでの距離の50%の位置に配置されていることがわかります。
■STEP4 管理限界線ACLを求める
最後に管理限界を計算します。
= 50.20 + 0.50 × 0.30
= 50.20 + 0.15
= 50.35 mm
こうして受入管理図の上側管理限界線を求めることができました。
同様の方法で、下側管理限界線も求めることができます。

まとめ
受入管理図(Acceptance Control Chart)は、通常のシューハート管理図とは異なり、管理限界を工程のばらつき(±3σ)ではなく、品質保証上の要求水準に基づいて設定する管理図です。
本記事では、ISO 7870-3に基づき、受入管理図の考え方から管理限界(ACL)の計算方法までを解説しました。
この記事のポイントは次のとおりです。
✅受入管理図は、工程を調整するためではなく、工程を受け入れるか判断するための管理図です。
✅管理限界(ACL)は、APL(Acceptable Process Level)・RPL(Rejectable Process Level)・生産者リスク(α)・消費者リスク(β)から決定されます。
✅αとβが等しい場合、ACLはAPLとRPLのちょうど中間に配置されます。
✅工程内のばらつきが小さくなっても管理限界は変化しないため、不要な工程調整(Over Control)の防止に役立ちます。
✅品質保証や受入判定を重視する工程では、従来のシューハート管理図よりも適した管理方法となる場合があります。
受入管理図は国内ではまだ利用例が多くありませんが、ISO 7870-3で国際標準化されている品質管理手法であり、工程管理と品質保証を両立するための有効な選択肢です。
製造業における品質改善・統計活用のご相談を承っています
Stat Labでは、製造業における品質改善やデータ解析、統計手法の活用に関するご相談を受け付けています。
| ご相談内容 | 主なサポート内容 |
|---|---|
| 工程能力指数(Cp・Cpk)の改善 | 工程能力の評価・改善方法の提案、品質改善支援 |
| 管理図・受入管理図の導入支援 | 工程管理方法の選定、管理図の作成・運用支援 |
| 実験計画法(DOE)の活用 | 実験計画の立案、解析、最適条件の探索 |
| MSA(測定システム解析) | Gage R&R、バイアス、直線性、安定性などの解析 |
| 回帰分析・分散分析などの統計解析 | データ解析、結果の解釈、改善提案 |
| Excelや統計ソフトを活用したデータ分析 | Excel・Minitab・JMPなどを用いた解析支援 |
| 品質改善・工程改善に関する技術相談 | 現場課題の整理から改善施策の検討までサポート |
「統計を現場でどのように活用すればよいか分からない」「品質改善を進めたいが解析方法に悩んでいる」といったお困りごとがありましたら、お気軽にお問い合わせください。製造業での実務経験を活かし、現場で役立つ統計活用をサポートいたします。
